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高松高等裁判所 昭和35年(く)10号 決定 1960年8月01日

少年 S(昭一八・一・二八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の趣意は、要するに少年は五才の時に頭を打つたことが原因で通常人以下の智能しか無く、気も弱いので少年院における集団生活に耐えることは困難と考えられ、かえつて、少年院において悪い感化を受ける恐れもあり一方少年は、今回の非行に対しては改悛の情が著しく、かつ少年の兄Bも今後直接に少年の指導に当るといつているので、少年の更生のためには、家庭における指導で充分であると考えられるから、少年を中等少年院に送致する旨の原決定は不当である、というにある。

よつて、記録を精査して考えるに、少年はその資質面においては、抑うつ性、自閉性を主徴とする精神病質的傾向を有しており、加えて知能が低格であるため、社会生活に対する適応性に乏しく、かつ、罪悪感も欠除し、犯罪的傾向も進んでいると考えられる。その家庭面においても、右のように資質面に欠陥を有する少年を保護する能力は充分とは認められない。そうして少年の非行は、既に一一才の頃から始まり愛媛家庭実業学校(教護院)或は京都医療少年院に収容されたこともあり、今回の窃盗、詐欺等の非行は、従前のものと比べてその被害金額も多く、手段も悪質化しており、かつ、今回の詐欺事件を起す直前に、少年は無断で家出をしている。このような諸点を考え合せると、少年の父母或は兄が少年に対し温い同情を有し、家庭において保護指導したいとの念願を有しているというその心情を理解することはできるけれども、少年を今直ちに家庭に帰して、家庭における保護に委ねるということは、少年の更生のためには、適当な方法でないといわざるを得ない。ところで、前記のような資質の少年を中等少年院に収容することの可否について考えるに、京都医療少年院長西村博の広島家庭裁判所尾道支部に対する回答、その他の記録によると、少年は、少年院等の集団生活にも耐え得る程度の資質はあり、かつ、京都医療少年院を昭和三四年一一月頃仮退院した当時は、やや落着いていたことも認められるのであつて、少年を少年院等に収容することが、抗告趣意にいうように、少年に対し悪影響のみを及ぼすものとも考えられない。

このように、少年の資質、家庭環境、非行歴その他諸般の事情を考え合せると、所論のような諸事情を考えても少年を更生させるためには、施設に収容して矯正教育を施すのが、現状に則した保護方法であると考えられ、少年の年令その他を考慮して、少年を中等少年院に送致することにした原決定は、まことに相当な処分というべきである。論旨は理由がない。

その他記録を精査しても、原決定に法令違反、事実誤認、処分の著しい不当等、これを取消すべき事由があると認めることはできない。 よつて本件抗告は、理由がないから少年法第三三条第一項に則りこれを棄却し、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 木原繁季 裁判官 石井玄)

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